課題概要
研究概要
物質の最小構成要素であるクォークを陽子内に束縛する強い力は、QCD(量子色力学)という理論により説明できることがわかっています。現在、この理論を精密に計算できる唯一の方法がスーパーコンピュータを用いる格子QCDという方法です。筑波大学を中心とした研究グループ(現PACS Collaboration)はこれまでに、筑波大学で開発され1996年に世界最速を達成したスーパーコンピュータCP-PACSをはじめとして、様々なスーパーコンピュータを利用した大規模格子QCD計算を実施してきました。2020年からは、現在世界最速級の国内最大スーパーコンピュータ「富岳」を利用した超大規模格子QCD計算を実施しています。本課題では、この計算を基礎にして、さらなる格子QCD計算の精密化を目指した研究を実施していきます。
また、「富岳」を利用した超大規模格子QCD計算を実施したことにより、従来計算とは異なる計算のボトルネックが見え始めました。将来の大規模計算を目指す上で、これらの問題を根本的に解決することは重要です。この解決方法の開発研究を、近年大きな注目を集めているAI技術を応用することで実施していきます。
研究計画
本課題では、2つのサブ課題①「物理点超大規模格子QCDによる標準理論を超える新物理探索」、②「次世代格子QCDへ向けたAI技術開発」を立て、国内最速スーパーコンピュータ「富岳」の性能を最大限活用した超大規模格子QCD精密計算と、AI技術を応用した新しい格子QCD計算方法の開発研究を進めていきます。
サブ課題①では、筑波大学を中心とした研究グループが開発した「富岳」専用格子QCD計算コードを用いて、世界に先駆けた超大規模格子QCD計算を行い、その計算結果を用いることで素粒子標準理論では説明できない物理現象の探索研究に貢献していきます。サブ課題②では、格子QCD計算にも応用が始まっているAI技術、特に機械学習技術を取り入れた新しい計算方法の開発研究を行い、格子QCD計算の高速化を目指すとともに、次世代大規模格子QCD計算に向けたAI研究開発基盤を構築します。
これらの研究は、大規模格子QCD計算を長年実施してきた筑波大学を中心とした研究グループと、格子QCD計算へのAI技術応用を研究する2つのグループが共同して推進していきます。さらに、異なるグループの相補的研究による相乗効果により、新たな研究基軸創出も目指していきます。