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場の理論、弦理論


場の理論と弦理論

現在の素粒子理論で標準的な研究手法となっている場の量子論は、拡がりをもたない 素粒子の相互作用を精密に記述する数学的枠組みである。一方、超弦理論とは 1次元的な拡がりをもつ弦の運動を量子効果も取り入れて記述する理論である。 超弦理論の著しい特徴は、重力相互作用を媒介する重力子とよばれるスピン2 のゼロ質量粒子を自然に予言する点にある。超弦理論では、大ざっぱに言って 弦の振動の固有モードのスペクトルが粒子スペクトルを決めるが、その中に重力子が 必然的に含まれている。この事実は、重力子を整合的に記述することを不得手とする 場の量子論における状況が、超弦理論では一変することを意味する。 すなわち、数学的整合性を保ちつつ重力子の量子論を展開できるのは、現在、 超弦理論のみである。

超弦理論のもうひとつの特徴は、ゲージ対称性を反映するスピン1のゼロ 質量粒子、すなわちゲージ粒子をも予言する点にある。 このように、超弦理論においては 重力子とゲージ粒子を対等の立場で理論的に扱えることが大きな魅力となっている。 ゲージ粒子は素粒子の電磁力と強い力を媒介するので、これに重力子を 加えたすべての力の媒介粒子を、超弦理論を用いて統一的に記述することが可能 となるからである。

重力とゲージ対称性に加えて、超弦理論の予言するもうひとつの対称性が 時空の超対称性である。この超対称性の下ではボゾンとフェルミオンという2種の 統計性の異なる粒子が同一質量をもち、ひとつの多重項にまとまるという著しい 現象が起こる。超対称性は超弦理論の核を 成す最も基本的な対称性であるといえる。


超対称性と素粒子の統一理論

素粒子を統一的に記述する究極の理論を追求する上で、超対称性は鍵となる 役割を果たすことが期待されている。その大きな理由のひとつは、仮に超対称性 があるとすれば、我々は超対称性によってフェルミオンが自然界に存在することを 説明できることになり、力を媒介するゲージ粒子(ボゾン)と力の源となる 物質(フェルミオン)を真に統一する理論的枠組みをもてるからである。

超対称性を現在のエネルギースケール (1012GeV) で大きな成功を 収めている標準模型に応用すれば(超対称統一ゲージ理論の構成)、超対称性固有の 量子効果抑制のメカニズムにより、素粒子の統一ゲージ理論におけるゲージ階層性の 問題を理解する理論的根拠が与えられる。このことは、我々が場の量子論の方法を 用いて信頼に足る理論的予言を行えるエネルギースケールを一挙に 1016GeV (GUTスケール)の領域まで押し上げることを可能にする。また、このようにして 超対称性により予言される素粒子を実験的に検証することは、近い将来の 高エネルギー実験における最重要テーマとなり、実験分野の新しい研究の展開を 促進することにもなる。

超対称性によりGUTスケールに到達したならば、次のエネルギースケールはPlanck スケール1019GeV であり、 そこでは重力をミクロの量子論によって取り扱う ことが要求される。一方、超対称性はその代数的性質によりごく自然に時空の構造と 密接な関係をもつ。従って、重力の量子論、すなわち時空のもちうる量子構造の 研究は超対称性を用いてこそ実践的なものとなり、ここで超弦理論がもつ真の成果 が発揮されると考えられる。逆に超弦理論に依拠すれば、すでに述べたように、 一般相対論、超対称性、 非可換ゲージ対称性のすべては弦理論の予言の産物となる。


超対称性の数理

超対称性のもとで必然的に現れるフェルミオン変数の反交換性は、微分形式の 外積代数の性質に対応し、超対称電荷は多様体上の外微分作用素とみなすこと ができる。 超対称性と多様体の幾何学との関連は、1980年代初めにWittenにより明らかに され、超対称性の物理と現代数学を結び付ける出発点となった。 これを徹底的に追求し、Wittenは位相的場の理論という斬新なタイプの場の理論を 1989年に提唱した。当初、位相的場の理論は単に数学的なモデルに過ぎないと思わ れていたが、2次元重力に応用され大きな成功を収め、 正統的な場の理論の一種としての地位を得た。さらに、 今後の超弦理論の研究において重要な役割を果たすものと予想される。

一方、位相的場の理論が数学へ与えたインパクトも大きく、 4次元多様体のDonaldson理論が位相的Yang-Mills理論として定式化され、 これはSeiberg-Witten方程式の理論へと発展した。また、2次元位相的シグマ模型に 基づき、量子コホモロジー環の概念が創出され、Calabi-Yau多様体のミラー 対称性の理解を促した。さらに、量子コホモロジー環はソリトン方程式とも 深い関係をもっている。

この位相的場の理論の根幹を成している対称性が超対称性であり、超対称性の物理と 現代数学の様々な分野を結び付ける鍵となっている。超対称性の数理の研究はこれから ますます深く進展していくと思われる。


最近の研究活動

このように超対称性の物理の研究は豊かな将来性をもつものと期待されるが、 それを約束するかのように着実かつ著しい研究の進展が、1994年のSeiberg-Witten の論文を契機として広がって いる。すなわち、超対称性が双対性のアイデアと画期的に結び付くことにより、従来 極めて困難と思われていた非可換ゲージ理論や超弦理論の非摂動的力学の理解が急速に 進み、この分野は活況を呈している。とくに、N=2超対称性は時空4次元のみならず、 2, 3, 5, 6次元でもその威力を発揮し、超対称性の物理の中でも際立った特質をもち、 可積分ソリトン方程式、位相的場の理論、高次元共形場の理論、N=1ゲージ理論などと 深い関係にある。超弦双対性の観点からもCalabi-Yau多様体の幾何と物理を結び付ける 役割を果たし、そこから N=2 Seiberg-Witten解の幾何学的特徴付けも見えるようになってきた。 また、11次元M理論や12次元F理論の 枠組みで、超対称ゲージ理論の非摂動的真空構造を明らかにすべく研究が展開し ている。その結果、N=2超対称理論のSeiberg-Witten解がM理論により再構成され、 また、例外型グローバル対称性をもつ非自明固定点の存在も明らかにされつつある。

このような研究動向を反映して、われわれはN=2超対称性の物理に焦点を当て、 超対称ゲージ理論の真空構造の様々な側面、 インスタントン計算による解析、位相的場の理論の研究を進めてきた。 また、N=1超対称性を用いたN=2理論の解析の例外型ゲージ 群の場合への拡張、特異点理論に基づくSeiberg-Witten解の微視的基礎付け、 Seiberg-Witten解の位相的場の理論としての様相、M理論のbrane配位と 超対称ゲージ理論のヒッグス相の関係などについても活発に研究を行っている。


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