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修士課程大学院生の(きびしめな)生活


前置き

ここは「修士ってどんなもの?」というやんわりとした疑問への答えよりも深く、「修士をどういう考えで過ごしたほうがよさそうか」ということにつっこんだバージョンの「修士課程大学院生の生活」です。 大学院進学は人生の大きな岐路だと思います。なかなか覚悟が決まらない、すこし厳しい意見もほしいという方の参考になれば幸いです。



修士課程進学前

院生生活は入学の少し前、B4の時代から始まっているといってよいでしょう。卒業研究も終盤に近付く忙しい時期ですが、M1からの勉強に向けた準備をしておくことが大切です。 特に素粒子分野ではない、宇宙分野の研究室などからこの研究室にくる方は「場の理論」について簡単に学んでおくのが良いと思います。 B4で「場の理論」を学んでいる場合でも、入学前に復習しておくことをお勧めします。私の場合、研究室に連絡を取り、月1回程度で「場の理論」のゼミを行っていました。遠方でなかなかゼミが難しいという方でも、「場の理論」については数々の良書があるので、それを図書館で借りて読んでみるのも手です。

進学前のおすすめ本



M1の生活

春学期

はれて大学院に入学したあなたはこれから5年間、あるいは2年間この研究室で過ごすことになります。これから苦楽を共にする同期と顔を合わせたら、まず、自分の部屋をきめます。部屋は2,3人部屋、先輩と同じ部屋で過ごすことになります。何かわからないことがあったら一緒に悩んでくれるはずです。 皆さんの部屋が配される自然系学系棟D棟3階には理論研究室共用部屋、通称「お茶部屋」という部屋がありまして、ここには電子レンジ、トースター、冷蔵庫が置いてあります。常識の範囲内で自由に使えます。 このお茶部屋は大量の本がおいてあるのも特徴です。読みたい本は自由に読んでもらって構いません。

筑波の大学院は、なかなか多くの授業を取らないと卒業できません。もちろんM1には必修科目もありますが、この他にも様々な授業を取る必要があるということです。 特に、他分野の勉強はほぼM1の間しかできません。宇宙理論、物性理論、数値計算など、もし興味があったら工学系の科目なんかも取ってみてはいかがでしょう。 個人的には数学研究科の科目を取ることをおすすめします。年度によって授業内容が異なりますが、違った目線から物理を見るいい機会になるでしょう。

このように授業がひしめく中で、「場の理論ゼミ」も行っていきます。M1で最も大切なのはこの「場の理論ゼミ」です。当たり前のことを言いますが、何が何でも毎回出席すること。ゼミは例年M. Peskin, D. Schroederの“An Introduction To Quantum Field Theory”を使っています。そんな簡単な本ではないので心してとりかかりましょう。わからなくても大丈夫、研究室のみんなと相談すること、一人で悩まないことが大切です。

また、M1では個人の興味のある内容についての自主ゼミも行います。 それぞれ興味のある内容について読んできて、自分の担当回にそれを参加者にもわかるように説明するというゼミです。 「そんな、興味なんて最初からわからないよ」という方にはいくつか選択肢も用意しますので安心してください。

もちろん、勉強しかできない毎日を送るというわけではありません。息抜きは重要です。素粒子理論研究室では週に1回有志でサッカーをしています。他にも日曜は気になる映画があったらみんなで研究学園まで見に行ったり、ラーメン激戦区つくばの麺を食べつくすたびに出たりもしています。 突発的にたこ焼きを作り始めたり、すき焼きを始めたり、イベントは盛りだくさんにできます。そんな中で先生方や先輩との交流も深まっていきます。


まとめますと、「勉強したい!」という希望には強く答えてくれる、それが筑波の素粒子理論研究室です。


夏休み

大学院にも夏休みはありますが、勉強に夏休みはありません。夏もゼミは続きます。遅くともこのころには異常磁気能率を自分で計算してみて、「場の理論ってすごい!」と思うことでしょう。

またこの時期は「原子核三者若手夏の学校」が開催されます。例年東京を離れた場所で一週間ほど全国津々浦々の大学院生と学び、語り、交流を深めます。授業内容はM1にとっては難しい内容のものもありますが、将来の展望を広げるいいイベントです。


秋学期

後期に入っても週一回のゼミ、自主ゼミは続きます。このころから先輩たちの動きもせわしくなり、そろそろ修論の時期になります。 10月ごろに修論の中間発表、1月に修論発表があります。できたら皆さん、この時に「先生方から出た質問」「先輩の発表の良い点、悪い点」をメモしておくことをお勧めします。

12月ごろ、場の理論ゼミは終了し、ここからは隔週で弦理論と格子場の理論について学びます。 このゼミからはTeXをつかってレジュメを作ることをおすすめします。あまり忙しくないこの時期にTeXを打つ練習をするといいんじゃないでしょうか。

●弦理論
例年J. Polchinskiの“String Theory”を輪講します。第一章は概説。ともするとすでに知っていることかもしれません。第二章の「共形場理論」からが本番です。

●格子場の理論
論文リストの中から好きな論文をえらんでそれについて各人発表します。格子場の基礎的な論文の他にインスタントンについての論文なんかもあります。


3月ごろ、来年どちらの分野の指導教員の下でどのような研究をするかを決定します。ここからいよいよ研究が本格化します。


M1でのおすすめ本

専門以外をまとまった時間かけて学べるのは今だけですから、専門に限らずいろいろなことを学ぶのがいいでしょう。専門的に、本格的に学ぶもよし、入門書でもいいから読んでみようでもよし、みんなで輪講するもよし、様々な使い方ができると思います。

個人的に面白いと思った本のリスト(順不同)



M2の生活

ゼミは週一ですが、参加者が大幅に減ります。しばらくは同分野の人と一緒にゼミをするかもしれませんが、最終的には指導教員と一対一のゼミです。M1の時は分からないところを少しごまかして発表していたかもしれませんが、M2では「わからないところは徹底的に解決する」よう努めると、あとが楽です。

秋学期が始まるといよいよ中間発表がやってきます。すこしでもあいまいなところがあれば、すかさず教授の皆さんに突かれます。炎上することもざらです。中間発表で完璧なものにするのは難しいでしょう。しかし、それは研究者として最低限考えねばならないことをどこか誤っていた結果です。真摯に受け止め、改善することが大切です。ここで出た質問や議論を糧に勉強を重ねます。とはいえもうあまり勉強している時間もありません。修論を書かねばならないのです。

おおよそ修論の第一稿は12月末にできていると修正にも十分な時間がさけるでしょう。あまり修論の進捗が遅いと、1月中頃には内部審査があります。内部審査の準備もさることながら、内部審査では修論の稿を公開します。内部審査は完璧に、そのうえ修論もこの時期に形になっていないと非常にまずい。

内部審査のすぐ後に修論の提出があります。これに遅れたら“あと半年”になりますから、間に合うようにスケジュールをしっかり逆算しましょう。

修論が提出できたら、続いて本審査が2月中旬にあります。これをクリアしてはじめて修士が取れます。この本審査は研究室以外の人々、非専門家向けの発表です。僕も内部審査の内容を平易に、かつ15分でおさめるように調整と練習を幾度となくしました。

本審査を終えるとつかの間の休息……、 と思いきや博士課程に進学する学生には院試が待ち構えています。 さらに、 3月は修了式ですが、春の学会もあります。今度は学会の準備をしなければなりません。

こうしてM2の春が終わります。ここから先は博士課程の学生として研究室の中核を担うこと、未熟かもしれませんが、研究者として物理の深淵を目指し、生きていくことになります。



就職について

修士課程が終われば、博士課程に進学する学生もいますが、家庭の事情などでどうしても修士で終わらせるという人ももちろんいます。私もそのほうで、就活をし、修士二年でここを旅立つのですが……、そんな私から就活について何点か。

まず、素粒子理論の研究室にきて素粒子論の知識そのものを武器に就活をするのは非常に難しい。世間一般の人々は僕らの研究内容を理解できません。どんなに平易にしようとしても、実社会とあまりにかけ離れた世界の話をしているのですから、妥協なしに説明するのは無理。致し方ないことです。その上、製造業なんかで「弊社の何に役立つのか」なんて質問をされた日には、正面から答えることができず悲しくなるものです(ダークエネルギーの利用?バカなこと言っちゃあいけない)。

だからといって悲観しすぎることはありません。素粒子理論研究室の学生は「何やら難しいことをやっていて頭がよさそうな人たち」と思われています。専門をそのまま利用することはできなくても、地力をおしていくことはできます。

それは嫌だ、学んだことで生きたいんだ! というなら、就活はしないで進学したほうが科学の発展に貢献できるでしょう。途中でやめても後悔するだけです。

就活をする場合、修士ですと推薦を取ることもできます。しかし、推薦は本来自分の専門と会社の専門が近いときに意味を持つものですから、推薦に期待するのはあまり得策ではないかもしれません。

一般的な就活同様、M1の夏ごろにはインターンに行き、業界を知りながら自分の視野を広げていく。秋の1Dayインターンに参加しながら、冬のインターンにも申し込み、3月、4月と面接を繰り返す。院生だから有利不利、理系だから有利不利と考えずに、真摯に向き合えば内定は貰えるでしょう。

民間企業ではなく、公務員を目指すという方法もあります。こちらも決して楽な道のりではありませんが、就活同様、綿密な準備をして望めば、きっと怖くありません。



書いたひと:平成29年度M2 川口
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