素 粒 子 っ て 何 だ っ け ? |
物理学の目標は、私たちのまわりで起こっている様々な現象の基本法則を 追求することにあります。 そのために、複雑な現象を個別の基本課程に分解し、それぞれの性質の 組み合わせとして全体の振る舞いを説明しようとします。
たとえば、自動車はどうやって走っているのでしょう? 自動車を分解してみると、エンジンやタイヤやボディーなどから 出来上がっています。 その個々の部品の動作を調べてみると、エンジンが産み出した回転力がタイヤに 伝えられ、その駆動力でタイヤが地面を蹴って、自動車が前進している ことがわかります。
では、エンジンはどうやって回転力を産み出しているのでしょう? それを調べるためには、エンジンをさらに分解してみなければなりません。 では、そのエンジン部品はどうやってその動作をしているのでしょうか?
このように、次々とより基本的な構成単位へと分解して行くことにより、
それぞれの時代で、実験で実際に存在が確認されている最小の物質構成要素を 素粒子と呼びます。 それでは物質は現在どこまで細かく分解できているのでしょう?
宇宙の銀河や巨大な銀河集団 (大きさ 1020 m 以上) も、 惑星やその上の岩石や生物 (1010~10-6 m) も、 結局、多数の原子 (10-10~10-12 m) から出来ています。
ラザフォードの実験により、原子は、その中心部に「原子核」 (~10-14 m) と呼ばれる 重い芯があり、そのまわりを数個~数十個の小さく軽い「電子」が周回する という構造をしていることがわかります。 つまり、原子は、さらに小さな単位から構成されているのです。
20世紀初頭から始まった高エネルギー粒子加速器(原子の中を覗くための 顕微鏡)の発達により、原子核の中身をさらに細かく調べてみることが 出来るようになりました。 その結果、陽子や中性子の仲間ハドロン が大量に発見されました。
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Ρ, Ν, Δ, Λ, Σ, Ξ, Ω,
Λc, Σc, Ξc, Λb, …
☆ π, ρ, ω, η, φ, ηc, a, b, h, f, K, Ks, D, B, Bs, J/ψ, Υ, χ, χb, … |
そこで考えられたのがクォークです。 ハドロンの性質の分析から、
π+ | = | _ (u,d), |
π0 | = | _ (u,u) + | _ (d,d), … |
通常クォークはハドロンの中に閉じ込められており、クォーク単体 をハドロンから取り出すことはできませんが、 原子核やハドロン同士を衝突させた様々な高エネルギー実験の結果が クォークの理論によってよく記述されているので、 ハドロンは確かにクォークから構成されていると考えられています。
クォークとしてはこれまでにアップ(u)、ダウン(d)、ストレンジ(s)、チャーム(c)、 ボトム(b)、トップ(t) の6種類が見つかっています。 最後のトップ クォークは、筑波大学が参加した国際共同実験により、1995年に発見されました。
電子は、これまでの実験では内部構造があるという証拠は見つかっていません。 他方、宇宙線や原子核崩壊の研究から、ミュー粒子 (μ) やタウ粒子 (τ) といった、 電子と似た性質の粒子が他にも存在することが知られています。 また、対応して、ニュートリノ (ν) も3種類存在しています。 これらの電子の仲間をレプトン と呼びます。
クォークの大きさや内部構造は、現在のところ実験的には見えていません。 また、上に述べたように、レプトンも点状の粒子として見えています。 もし大きさがあるとしても、現在の実験では見ることの出来ない 10-20 m 以下でなければなりません。 従って、クォークとレプトン(及び 以下で説明するゲージ粒子など) が、現在知られている最も基本的な物質の構成要素「素粒子」です。
強い相互作用を記述する量子場の理論は QCD(量子色力学) で与えられ、 電磁相互作用と弱い相互作用は ワインバーグ・サラム理論 によって統一的に記述されています。 この二つを合わせたものが素粒子の「標準理論」です。
これら3つの基本的相互作用によって、原子核反応・原子核崩壊から電磁気、 化学反応まで理解することができますが、 それだけでは私たちの良く知っている重力は導けません。 そこで第4の基本的相互作用として重力相互作用が加えられています。 素粒子の世界の重力がどのようなものであるかは理論的にも実験的にも 良くわかっていませんが、通常の物質中や加速器実験などにおいては、 十分弱いものとして無視することができます。
量子場の理論では、相互作用を素粒子の交換として表現します。 例えば、真空中で飛んできた電子(e) が陽子(P) によって散乱される場合を 考えてみましょう。 直接衝突しない場合でも、負電荷の電子は正電荷の陽子に電気的に引き付けられ、 軌道が曲がります。 では電子は真空中でどうやって陽子の存在を知ったのでしょう。 ワインバーグ・サラム理論では、電子は陽子から飛んできた光の素粒子 「光子(γ)」を吸収することで陽子を <<見>> て、電磁力を受けます。 つまり、荷電粒子は光子の交換を通じて電磁相互作用するのです。
弱い相互作用や強い相互作用においても同様に、それぞれの力を媒介する
素粒子(ゲージ粒子)の交換を通じて
相互作用が行われます。
4つの基本相互作用のゲージ粒子をまとめると、
となります。重力子を除き、全て実験的に存在が確認されています。
これまでに実験的に確認されている素粒子とハドロンの情報は、 ``Particle Data Group'' によって集積され、表にまとめられています。
素粒子の標準理論には、4番目の基本相互作用である「重力」が含まれていません。 全ての相互作用を矛盾なく記述する理論を構成することは、素粒子物理学の最大の目標であり、様々な試みが続けられています。
重力は、巨視的な世界では一般相対性理論により記述されていますが、微視的な世界の通常の量子場の理論では、重力をうまく取り入れることが出来ません。 他方では、量子場の理論による素粒子標準理論には、理論的には、究極の理論としていくつか不満足な点があり、それを解消する統一理論が模索されています。 それらの一つの解として期待されているのが、超対称性を持つ趙弦理論です。
最も小さなものである素粒子の性質の解明は、最も大きなものである、私達の宇宙全体を理解する上で、極めて重要な役割を果たしています。
遠方の星や銀河の観測から、私達の宇宙は、一様に膨張(ハッブル膨張)していることが知られています。 その時間を逆にたどると、約137億年前に宇宙全体が極めて小さな領域に押し込まれてしまいます。 そこから、宇宙がひとつの巨大な爆発「ビッグバン」により生まれ、現在も膨張し続けているという宇宙像が作られました。
ビッグバン初期からの時空と物質の進化をたどることができれば、現在の私達の宇宙がどうしてこのようになっているのかを理解できます。 ビッグバン初期では、物質は極めて高温・高密度の状態にあり、通常の原子や分子はその形を保つことが出来ず、素粒子まで分解されるでしょう。 その高温・高密度の素粒子のスープがどのような性質を持つかが分かれば、
また、中性子星やクォーク星の中心部の状態や、さらには、ダーク・マターやダーク・エネルギーの正体の探求において、素粒子の研究は本質的な役割を果たしています。
このように、最も小さなものの原理と、最も大きなものの真理とが密接に結びついている様子は、自分の尻尾を加えた神話の竜(蛇)「ウロボロス」にしばしばたとえられています。
(金谷)
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